みーの医学

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心臓手術の体外循環における心筋保護液の役割

心臓の手術をする場合,心臓を停止させ,体外循環に切り替えることがある.この時,心臓を冷却し,心筋保護液を冠動脈に注入するのだが,心筋を保護する液って何だろう?と疑問に思ったので,調べたことをまとめておく.

心筋保護液は,心停止中に心筋が虚血にならないようにするためのものであり,以下の3つの作用によって虚血を防ぐことが知られている.

  1. 急速な心停止によるエネルギー保存
  2. 低温による代謝の抑制
  3. 細胞傷害の防止

まず1については,高カリウム液を利用する.高カリウム血症による不整脈や心停止は有名な事項なので,すぐに理解できると思う.

2については,心筋を冷却することで,細胞の代謝を抑制する.

3については,適切な物質を添加することで細胞傷害を防止するらしいのだが,これは個々の心筋保護液によって異なる.

例えば,心筋保護液の1つであるミオテクターは,使用時に以下の成分となるように作られている.

  • Na+ : 120 mEq/L
  • K+ : 16 mEq/L
  • Mg2+ : 32 mEq/L
  • Ca2+ : 2.4 mEq/L
  • HCO3- : 10 mEq/L
  • Cl- : 160 mEq/L

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まず,カリウムが16 mEq/Lというとんでもない高濃度になっている.Kが7 mEq/L だと臨床的にやばいとされているので,これならば確実に心停止できそうである.これを4℃に冷却して冠動脈に注射することで心筋の冷却を保持する.

ちなみに高カリウム液は医療現場では危険な物なので,黄色に着色してあるため,カリウムは黄色なのかと思うかもしれないが,カリウム水溶液は無色透明である.

まとめると,体外循環による心臓の手術では,心臓を冷却しながら高カリウム液を入れ,心臓に切開を入れ,いろいろと修復するわけだ.こんなことして大丈夫なのか?と心配してしまうが,適切に解除すれば心臓はすっと動き出すのを手術室で実際に見たので,正しい治療法であることは疑う余地がない.

参考: