みーの医学

2016年3月に110回医師国家試験に合格しました.医療従事者のためのWebサービスであるLafLaboの開発者です.

βDグルカンの偽陽性に振り回されない

80歳台の男性,多発性骨髄腫で,IgGが200 mg/dL (基準値 870-1700) の患者さんが発熱しました.

易感染性宿主のため,血液培養含め血液検査と尿検査と胸腹部CTを行いました.CRP 0.6 mg/dL,画像所見含めて感染症を示唆する所見に乏しかったのですが,ひとまずempiric therapyとしてPIPC/TAZを開始しました*1

同日夕方にβ-D-グルカンの結果が判明し,40 pg/mLと新規に上昇していました.真菌感染症なら厄介だな,と思ったのですが,同時に提出した生化学検査のコメントに「溶血あり」と記載がありました.全身状態は比較的保たれており,抗真菌薬の追加は行わず輸液内容も同一とし,翌日にβ-D-グルカン含めて血液検査を再検しました.溶血しないよう真空管採血からシリンジ採血に変更しました.

検査 1日目 2日目
LDH 421 U/L 180 U/L
K 5.6 mEq/L 4.1 mEq/L
β-D-グルカン 40 pg/mL 感度以下

真菌感染症が無治療で一晩で自然軽快するとは考えにくく,溶血による偽陽性と考えました.PIPC/TAZの投与で自然に解熱し,後日の培養検査はいずれも陰性でした.

β-D-グルカンは真菌感染症を示唆する所見として,易感染性宿主の感染症治療に関連して重要な検査です.しかしながら,偽陽性を示すことが知られています.

グルカン製剤(抗悪性腫瘍剤)、セルロース膜で精製した血液製剤などの投与、セルロース膜での透析後の血液などは、データが高値を示す可能性がある.また,多発性骨髄腫・高γ-グロブリン血症では非特異反応を示す可能性がある.溶血検体では,高値傾向を示す場合があり,溶血の度合いによっては検査不能となる場合がある.*2

溶血でも偽陽性となることには注意が必要です.β-D-グルカンのみでは溶血の度合いがわからないので,LDHやKなど溶血で上昇する検査項目と同時に提出し,溶血がないことを確認するべきだと思われます.

また,透析患者でも非特異的に上昇する場合があるようで,元気な時に透析直前の血液検査でβ-D-グルカンが陰性であることを確認しておくべきなのだと思われます.

時々,β-D-グルカンの上昇を伴う発熱に対して,とりあえずMCFGを投与したら,すぐに解熱しβ-D-グルカンが陰性化するという症例を見かけますが,真菌感染症ではなく,感冒と溶血が織りなす嘘の物語なのではないかと思います.

真菌感染症の診断は難しく,血液検査や画像所見なども合わせながら総合的に考える必要があることを再認識した症例でした.

*1:現在当院ではCMXの供給不足のため,PIPC/TAZが第一選択薬となっています.

*2:β-D-グルカン | SRL総合検査案内