みーの医学

2016年3月に110回医師国家試験に合格しました.医療従事者のためのWebサービスであるLafLaboの開発者です.

肝細胞癌の治療の選択

肝細胞癌の治療を選択する問題は医師国家試験には頻出なので整理しておきます.

まず,Child-Pugh分類の5つの項目を覚えます.

  • 血清リルビン値 (Bilirubin)
  • 血清ルブミン値 (Albumin)
  • 水 (Ascites)
  • 症 (Encephalopathy)
  • PT

これは,

ビア腹のPatient

と覚えるのがよいでしょう.脳症をICGに変えると,肝障害度の5項目になります.

  • 腹水 (Ascites) : 治療効果乏しい
  • 血清アルブミン値 (Albumin) < 3 g/dL
  • 血清ビリルビン値 (Bilirubin) > 3 mg/dL
  • ICG > 40 %
  • PT < 50 %

肝臓の予備能が重要なので,最初に肝臓の障害度がCかどうかを評価します.上記5つのうち1つでも当てはまれば肝障害度Cとなります.肝障害度Cは予後が悪いので,

散々な予後 (3, 3, 40, 50)

とゴロで覚えます.

肝障害度Cの場合

肝臓の治療は難しいので,肝移植の適応(ミラノ基準)があるかを判断します.

  • 腫瘍径3cmまでなら3つまで
  • 腫瘍径5cmまでなら1つのみ

適応がなければ緩和ケアとなります.

肝障害度A, Bの場合

手術の適応があるかを判断します.手術は最も根治性が高い治療方法だからです.

  • 単発 or 同一区域内
  • 黄疸,腹水,肝性脳症がない
  • ICG15分値 < 30%
  • 門脈本幹の閉塞がない

適応がなければ,穿刺局所アブレーション療法 (ラジオ波焼灼療法と経皮的エタノール注入療法)の適応があるかを判断します.体への負担が少ないのが特徴です.

  • 腫瘍径 3cmまで
  • 腫瘍数 3個以下

適応がなければ,経カテーテル冠動脈化学塞栓療法(TACE)の適応を判断します,肝癌が多数ある場合は独壇場です.しかし,完全に腫瘍選択的に血行を遮断することは不可能なので,根治性は劣ります.

  • 門脈本幹の閉塞がない
  • 総ビリルビン < 3 mg/dL

TACEが無理なら,化学療法を考慮します.肝細胞癌は抗癌剤と放射線はあまり有効ではないので,1st choiceにはならないです.

基準値はみんな3なので覚えやすいです,

例題

100H20

58歳の男性.肝硬変で通院中,腹部超音波検査で中等量の腹水と肝右葉の直径2cmの肝細胞癌とが発見され入院した.血液所見:赤血球403万,Hb 11.8g/dL,白血球3,200,血小板4.8万,プロトロンビン時間35%(基準80~120).血清生化学所見:総蛋白5.3g/dL,アルブミン2.7g/dL,総ビリルビン4.2mg/dL,直接ビリルビン2.6mg/dL,AST 53単位,ALT 45単位.HCV抗体陽性.1ヵ月前に施行したICG試験(15分値)は42%(基準10以下)であった.

最も良い治療予後を期待できるのはどれか.

    a 放射線治療

    b ラジオ波焼灼

    c 肝動脈塞栓術

    d 肝切除

    e 肝移植

肝障害度(太字の項目を確認)は,ICGとT-Bilが基準値を超えているので,Cとなり,肝移植か緩和ケアとなります.ミラノ基準を満たすので,e 肝移植 が答えです.

103D31

58歳の男性.肝腫瘍の精査のため来院した.12年前に慢性C型肝炎と診断されたが放置していた.心窩部痛のため近医を受診し,腹部超音波検査で肝腫瘍を指摘された.意識は清明.身長174cm,体重66kg.脈拍72/分,整.血圧120/70mmHg.心音と呼吸音とに異常を認めない.腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない.血液所見:赤血球486万,白血球5,600,血小板18万.血液生化学所見:アルブミン4.8g/dL,クレアチニン0.8mg/dL,総コレステロール192mg/dL,総ビリルビン1.0mg/dL,直接ビリルビン0.6mg/dL,AST 42IU/L,ALT 58IU/L,ALP 220IU/L(基準115~359).免疫学所見:HCV抗体陽性,AFP 1,200ng/mL(基準20以下).ICG試験(15分値)8.6%(基準10以下).腹部超音波写真を次に示す.この他に肝腫瘍を認めない.治療として最も適切なのはどれか.

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    a 放射線治療

    b 肝動脈化学塞栓療法

    c 経皮的エタノール注入療法

    d 肝切除術

    e 肝移植

肝障害度(太字の項目を確認)は,PTが分からないが,他の4つは基準値内なので,A or Bである.エコーを見ると腫瘍は1つのみなので,手術の適応がある.d 肝切除術が答え.

96I42

65歳の男性.全身倦怠感を主訴に来院した.腹部超音波検査で肝に腫瘤を認めたので精査のため入院した.C型肝炎の既往がある.手掌紅斑と前胸部にクモ状血管腫とを認める.黄疸は認めない.肝は触知しない.血液所見:赤血球410万,Hb 12.0g/dL,Ht 45%,白血球5,200,血小板9万.血清生化学所見:総蛋白6.5g/dL,アルブミン3.0g/dL,総ビリルビン1.2mg/dL,AST 72単位,ALT 60単位.AFP 115ng/mL(基準20以下).ICG試験(15分値)35%(基準10以下).総肝動脈造影(A,B)と経動脈性門脈造影(C)とを次に示す. 適切な治療法はどれか.2つ選べ.

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    a エタノール注入療法

    b マイクロ波凝固療法

    c 肝動脈塞栓術

    d 肝動脈内抗癌薬注入療法

    e 肝切除術

肝障害度(太字の項目を確認)は,PTが分からないが,他の4つは基準値内なので,A or Bです.ICG試験(15分値)>30 %なので,手術の適応はありません.AとBの画像を見ると腫瘍は少なくとも4つあるので,穿刺局所アブレーション療法の適応はありません.Cの画像で門脈本幹の閉塞がないため,TACEの適応となります.1st choiceではありませんが,化学療法の適応もあります.なので,c 肝動脈塞栓術, d 肝動脈内抗癌薬注入療法が答えです.

ちなみに,門脈本幹の閉塞はCTでこのように見えるそうです.赤矢印の先で門脈が欠損しているのが分かります.

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http://hqpatho1.luna.bindsite.jp/casereport/cpc/kokacpc2006.html より引用

参考