「あなたは医療関係者ですか?」という質問を最初に投げかけてくるウェブサイトを時々みかけます.多くは医薬品や医療機器メーカーのホームページです.わざわざ「あなたは医療関係者ですか?」と質問する理由を考察してみましょう.
質問の共通点を探る
「あなたは医療関係者ですか?」という質問には,いくつかのパターンがあります.
- 「あなたは医療関係者ですか?」と質問するだけ
- コンテンツの趣旨を説明した上で質問する
- 会員登録・ログインの機能を併設した上で質問する
「あなたは医療関係者ですか?」と質問するだけ
単刀直入に要件を聞いてくるタイプのウェブサイトです.例えば以下の会社が当てはまります.
株式会社ICST
株式会社アクトラス
コンテンツの趣旨を説明した上で質問する
日本国内の医療提供施設に勤務している医療従事者を対象としたコンテンツであることを説明した上で,選択肢を提示するタイプのウェブサイトです.みーの経験ですが,このタイプが一番多いように思います.
わかもと製薬株式会社
ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
光製薬株式会社
Zimmer Biomet
カイゲンファーマ臨床検査研究所
ムンディファーマ株式会社
小川医理器株式会社
会員登録・ログインの機能を併設した上で質問する
会員登録を促し,ログインの機能があるウェブサイトも存在します.
テルモ株式会社
第一三共株式会社
アステラス製薬株式会社
「あなたは医療関係者ですか?」と聞かれる理由
いずれの質問にも,以下の点が共通しています.
- 医薬品・医療機器メーカーのウェブサイトである.
- 医療従事者かどうかを質問する.
この質問をする理由は,製薬協コード・オブ・プラクティスに記載されています.
当該製薬企業名と医療関係者向け情報である旨が明記されており、かつ、アクセスする者が医療関係者向け情報である 旨の確認をしたときのみ当該ウェブサイトにアクセスできる構造になっている場合は,我が国の法令等に抵触しない範囲(患者や一般の人々を誘引しない)であれば、特にパスワード設定の方法によらな くとも、適切な情報提供と認めることとします。(製薬協コード・オブ・プラクティスより,引用.一部改変*1 )
つまり,患者や一般の人々を誘引しないウェブサイトならば,「あなたは医療関係者ですか?」と質問するだけで医薬品の情報公開をしてよい,という業界ルールがあるから.が答えだと思います.
しばしば,一般の人に医薬品の宣伝をしてはいけないから「あなたは医療関係者ですか?」と質問すると解釈している人がいますが,これは誤りだと思います.なぜならば,上記ウェブサイトの医薬品情報の目的は,情報公開であって,宣伝ではないからです.
医薬品の項目の該当性に,顧客を誘引する意図が明確であることという条件があります*2.
製薬協コード・オブ・プラクティスの記載はあくまでも患者や一般の人々を誘引しない場合に限定されていますし,そもそも医薬品の広告をウェブサイトで行うことは日本の法令上かなり難しいのです*3.
一般の人がサイトを訪れた場合
一般の人が上記のウェブサイトを訪れて,「あなたは医療関係者ですか?」と質問された時に嘘をついてアクセスしてもよいですか?と質問を受けることがあります.とても答えにくい質問です.
お酒を購入する時に未成年かどうかを質問されるのは,販売者が未成年者飲酒禁止法で50万円以下の罰金が課されないようにするためです.これに対して,「あなたは医療関係者ですか?」と質問されるのは,法律にすら存在しない業界ルールに定められているためであり,刑罰はありません.しかし,嘘をついてアクセスしてよいとも言えません.グレーゾーンなのです.
みー自身は,医療従事者だけでなく,一般の人も添付文書など医薬品の情報にアクセスして,自分が使っている医薬品の情報に積極的に触れてよいと思っています.患者さんが添付文書を持参して質問に来られたこともありましたが,きちんと治療の説明するきっかけになったので,よいことだと思います.とはいえ,現在の日本では,一般の人が医薬品のウェブサイトにアクセスすることはグレーゾーンな部分が存在するので,理解した上で対応していなければなりません.
職業を聞かれる意味
医療従事者かどうかを質問するだけでなく,医師,薬剤師,看護師など具体的な職業を聞かれる場合があります.法的な根拠があるわけではなく,おそらくマーケティングの目的で情報を収集しているのだと思います.
会員登録をする意味
上記ウェブサイトの中には会員登録の機能を併設したものもありますが,会員登録をしなくても観覧できます.みーの経験ですが,会員登録をすることにより,より多くの情報が観覧できるようになるウェブサイトは見たことがありません.会員登録をする意味はあまりないのかもしれません.
なお,本当に医師のみに限定されたコンテンツを提供するサイトの場合は,医師免許の番号などを含めた厳重な本人確認があります.また,医師向けのコンテンツをウェブサイトで提供するよりも,製薬会社のMRさんらが病院に直接出向いて医師らに説明した方が色々な意味で自由度が高いです.したがって,現在の日本の制度では,一般の人がアクセスしてはいけないコンテンツに,一般の人がアクセスするのはほとんど不可能だと思います.
*1:製薬協コード・オブ・プラクティス|自主規準|日本製薬工業協会
*2:「平成 10 年 9 月 29 日医薬監第 148 号 都 道府県衛生主管部 (局)長あて厚生省医 薬安全 局監視 指導課 長通知」には,
- 顧客を誘引する (顧客の購入意欲を昂進させる )意図が明確であること
- 特定医薬品等の 商品名が明らかにされていること
- 一般人が認知できる状態であ ること
上記の3要素が指摘されています.
*3:日本での医薬品の広告については,いくつかの法令で制限がありますが,主に医薬品等適正広告基準に以下のように定められています.
- 医師若しくは歯科医師が自ら使用し、又はこれらの者の処方せん若しく は指示によって使用することを目的として供給される医薬品及び再生医 療等製品については、医薬関係者以外の一般人を対象とする広告を行って はならない。