みーの医学

2016年3月に110回医師国家試験に合格しました.医療従事者のためのWebサービスであるLafLaboの開発者です.

心理学的検査のまとめ

(医学生の勉強のためにまとめた記事です.当ブログの利用規約にも記載していますが,実際の医療への応用や一般の人向けの記事ではありませんので,あしからずご了承ください.)

精神科の国試のヤマの1つである心理学的検査を分かりやすくまとめてみました.

心理学的検査を理解するには,それぞれの検査は「どうやって」「なにを」検査するのかを整理することが重要です.検査の分類と,その検査を彷彿とさせる画像を用いて整理しました.

分類

心理・精神機能検査には,

  • 心理学的検査: 性格を調べる.
  • 知能検査: 知能を調べる.
  • 精神心理学的検査: 高次脳機能を調べる=失語や失行が分かる.
  • 発達検査: 乳幼児の精神発達を調べる.

があります.次にそれぞれに含まれる個々の検査をまとめていきます.

心理学的検査

性格を調べるための検査で,方法により,

  • 質問紙法
  • 投影法
  • 精神作業能力検査

があります.

質問紙法

質問項目に対して,被験者が回答する方法です.

ミネソタ多面人格検査(Minnesota Multiphasic Personality Inventory; MMPI)

550の質問項目があり,回答をスコア化して,心気症尺度(Hs)や抑うつ尺度(D)などの10の臨床尺度を算出する検査である.質問数が多いので検査に時間がかかる難点があるが,妥当性尺度も同時に計測できるため,うそがないかなどの結果の妥当性も判定できるメリットがある,

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矢田部ギルフォード性格検査(Y-G 検査)

MMPIのように12の性格の尺度を測定する検査である.120問で構成されており,MMPIよりも簡単に実施できるものの,妥当性の判定はできない.

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簡易精神症状評価尺度 (Brief Psychiatric Rating Scale; BPRS)

心気的訴え,不安,感情的引きこもり,思考解体などの18の評価項目を,1-7で評価する.MMPIと異なるのは,面接を通じて検者が質問をし,それに答える点である.

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うつ病用ハミルトン評価尺度 (Hamilton Rating Scale for Depression; HRSD)

うつ病専用の症状評価尺度で,うつ病の治療効果を評価するために行う.

ベック式抑うつ評価尺度 (Beck Depression Inventory)

HRSDと同様の検査.

投影法

比較的あいまいな刺激材料を提示して,被験者の性格の特性を調べるための検査である.質問紙法では点数化されるので客観的な判断が可能であるが,評価項目以上のことは調べられない.投影法では自由な回答が可能であることがメリットであると同時に,客観的評価が難しいというデメリットである.

ロールシャッハ・テスト (Rorschach test)

被験者にインクのしみを見せて何を想像するかを述べてもらい,その言語表現を分析することで思考過程を推定する検査である.

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主題解釈テスト (Thematic Apperception Test; TAT)

曖昧なイラストを見て,物語を作ってもらう検査.

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文章完成テスト(Sentence Completion Test; SCT)

不完全な文章を見せて,文章を完成させてもらう検査.「私の家族は一般的な家族よりも....」に対して,「母親が主導権を握っている」などと回答する.

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精神作業能力検査

被検者にある一定の作業を行わせることで,性格を評価する検査である.

内田クレペリン精神検査

ひと桁の足し算をひたすらに行い,作業の速度,安定性,正確性を評価する検査である.就職試験で安定して作業ができる人材が欲しい場合などに使われる場合もあるという噂がある.

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ベンダー・ゲシュタルト・テスト (Bender-Gestalt Test)

9つの図形を1つずつ提示し,白紙に模写してもらう検査である.脳の器質的障害のスクリーニングのために行う.有名なゲシュタルト崩壊のゲシュタルト(形態の意味)である.決してゲシュタルト先生が考案したわけではない.

これが見本.

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これがある患者が描いたらしい図.

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知能検査

ウェクスラー式 (Wechsler)

言語性検査と動作性検査で得点を算出し,被験者の年齢の平均得点との比から知能指数(IQ)を測定する.成人用のWAIS-III (Wechsler Adult Intelligence Scale; ウェイス)と,小児用のWISC-IV (Wechsler Intelligence Scale for Children; ウィスク)があるWISCは5-15歳までに用いる.

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ビネー式 (Binet)

田中ビネー式知能検査 (Tanaka-Binet Intelligence Scale)

全般的な能力を見る検査であり,幼児から成人までと適応範囲が広いのが特徴である.Wechsler式は5歳以下に適応がないので注意する.

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Mini-Mental State Examination (MMSE)

認知障害の検査方法であり,せん妄や認知症の検査である.見当識,記銘力,注意と計算,想起,言語,組立の6項目があり,30点満点で評価し25点以下で疑い,20点以下ならば明確な障害であると言える.

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長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R)

MMSEと同じ認知症の検査である.MMSEと同じ30点満点で20点以下で軽度以上の認知症と判断する.MMSEの組立にあたる項目がないのが違いである.

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神経心理学的検査

標準失語症検査 (Standard Language Test of Aphasia; SLTA)

失語の検査方法である.

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WAB失語症検査

同じく失語の検査方法である.失語指数(AQ)を算出する.

標準高次動作性検査 (Standard Performance Test for Apraxia; SPTA)

失行の検査方法である.患者に舌を出してもらうなどして,動作を評価する.

標準高次視知覚検査 (Visual Perception Test for Agnosia; VPTA)

失認の検査方法である.

ウィスコンシンカード分類課題 (Wisconsin Card Sorting Test; WCST)

遂行機能検査である.概念の変換と維持に関する能力を調べる.色・形・数が4種類ずつあるカードを用いて,カードを分類してもらい,正解か不正解かだけを伝える.前頭葉の機能を評価できる.

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発達検査

津守・稲毛式乳幼児精神発達診断

乳幼児(1ヶ月から6歳)の精神発達の検査で,質問が記載された紙を用いて養育者が回答する.簡便に実施できるため,乳幼児の発達スクリーニングに適している.すなわち,子供に何かを行う検査ではないというのが「田中ビネー式知能検査」との違いである.なお,広汎性発達障害の母親の子供が広汎性発達障害かを評価する場合,母親は自分と比較して違和感がないと感じるために正常と判断して正しく評価できない可能性がある.

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まとめ

教科書に書いてあるような検査名の羅列では覚えにくいので,検査の内容が分かるようなイラストを添えて整理してみました.少しは覚えやすくなったような気がします.