書式
レポートの形式は指導医から指定があればそれに準拠すればいいのですが,とくに指定がない場合は,「日本内科学会」の書式[template]を参考にします.以下の書式が一般的です.
患者ID, 年齢, 性別, 入院日, 退院日 【診断名】, 【主訴】, 【現病歴】, 【既往歴】, 【生活歴】, 【家族歴】, 【入院時現症】, 【検査所見】, 【Problem List】, 【入院後経過】, 【退院時処方】, 【考察】, 【参考文献】
それぞれの項目を説明します.
患者ID, 年齢, 性別
個人情報の保護の観点から,ここは省略します.特に患者ID と氏名は漏洩するとまずいので,空欄かイニシャルにします.年齢は「50歳代」などとし,具体的な記載は避けます.性別は男女を記載します.
入院日, 退院日
病院実習では入院している患者さんの担当になることがほとんどなので,入院日は書けるはずです.嬉しいことに,担当期間中に患者さんが元気に退院した場合は,退院日も書きます.
【診断名】
診断名はICD10(国際疾病分類第10版)の項目を参考に記載します.
http://www.dis.h.u-tokyo.ac.jp/byomei/icd10/
例えば多発性骨髄腫で,病的骨折を伴っている場合は,
- ベンスジョーンズ型多発性骨髄腫
- 腰椎圧迫骨折
などと記載します.
【主訴】
主訴は,患者さんが医療機関を受診した理由です.例えば多発性骨髄腫の患者さんが腰痛に困って受診した場合は「腰痛」と記載します.つまり主訴は必ずSOAPのSになります.具体的な例として,全身倦怠感,息切れ,右手の痺れ,めまい,などです.
ただし,最近は自覚症状がないうちに健康診断によって疾患が見つかることも多いです.例えば,肺癌が健康診断で見つかったけれども自覚症状がない場合,主訴をどう書くかは人によります.自覚症状がないので「なし」とすることが多いと思います.「なし(肺癌手術目的)」と有益な情報を括弧で付加する人もいます.中には「肺癌」と診断名を書く人もいますが,主訴ではないでしょう.
【現病歴】
現病歴は患者さんの初発症状から入院までの経過を書きます.以下のように書きます.
xxxx年x月にxxxx病院でxxxxx検査で異常を認め,近医でxxxxxを処方されたが改善を認めなかった.xxxx年x月に当院当科を受診し,xxxx年x月にxxxxx術施行目的にて当科入院となった.
症例によっては特徴な所見があったり,既に治療を受けていることもあるので,適宜付け足します.
日付は必ず西暦で書きます.「5年前」などと相対的な表記をしてはいけません.相対表記では,あとで見返すといつのことなのかが分からなくなるからです.乳幼児の場合は西暦に括弧で年齢を併記すると,イメージしやすい文章になります.
便利な表現
- xxxx検査にて異常を指摘され,
- 近医にてxxxを処方されるも改善を認めず,
- xxxx目的で当科入院となった.
- xxxxで加療するもコントロール不良で,
- xxx検査を施行した.
- xxxx無効と判断し中止した.
【既往歴】
西暦(年齢)と疾患名を箇条書きします.手術を受けた場合は術式も併記します.
2000年 (26 歳) 痔瘻に対して手術.
現在慢性疾患(脂質異常症など)に罹患している場合も既往歴に記載することが多いですが,「既往歴」と「併存症」を区別する先生もいます.
2012年 脂質異常症.アトルバスタチン服用中.
【生活歴】
以下のように適宜まとめます.
飲酒: ビール2缶/week.2012年より禁酒.
喫煙: 10-15 本/day を 20 歳から 40 歳まで.現在は吸わない.
運動: ほとんどしない.
食事: 外食がほとんど.
職業,生活状況(一人暮らしetc.),アレルギー,輸血歴も必要に応じて併記します.
【家族歴】
血縁者に同様の症状の人がいるか,同じ疾患の人がいるかを記載し,家系図を書きます.なにも無ければ「特記すべきことなし」とします.
家系図は,以下の原則に従います.
同じ世代の人を横に並べる. 同じ世代の人は,年齢が高い人を左に,より若い人を右に並べる. 男性は正方形,女性は円. 死亡した人には斜線を入れる. 遺伝性疾患に罹患している人は黒く塗りつぶす. 死亡した原因疾患と死亡年齢が分かる場合は併記する. 細かい規則は以下のサイトにまとまっています.
遺伝子診断技術 - 24. その他のトピック - MSDマニュアル プロフェッショナル版
【入院時現症】
入院して初めて取った身体所見を書きます.以下のよう書きますが,疾患によってポイントとなる所見を漏らさず記載するのが重要です.
身長 xxx cm, 体重 xx kg, BMI xx.x, 意識鮮明, 血圧 xxx/xx mmHg, 体温 xx.x °C, 脈拍 xx/min., SpO2 xxx% (room air)
眼瞼結膜貧血なし, 眼球結膜黄染色なし, 頚静脈怒脹なし, 頸部雑音なし, 甲 状腺腫大なし.
心音整, 心雑音を聴取せず. 呼吸音清, 副雑音聴取せず.
腹部平坦・軟, 自発痛・圧痛・反跳痛なし, 腸音正常.
下腿浮腫なし、四肢冷感なし.
入院時とはいうものの,担当期間の最初の日に自分でとった身体所見を記載してほしいという指導医が多いようです.ベッドサイドに行き,積極的に所見を取りましょう.当たり前ですが,指導医が電子カルテに記載した文章をそのままコピペするのは良くないです.
【検査所見】
入院してから実施した検査の結果を記載します.
- 血液検査
- 胸部レントゲン
- 心電図
- エコー
- CT など,必要な結果をまとめます.
【Problem List】
症状や診断名など適宜記載します.
#1 ベンスジョーンズ型多発性骨髄腫
#2 腎機能障害
#3 貧血
#4 腰椎圧迫骨折
などと記載します.#1 のシャープは,"No."(=番目)の意味です
【入院後経過】
日本内科学会のレポート例では,
- プロブレム毎に叙述する様式
- 入院後経過を確定診断毎に叙述する様式
- 経時的に叙述する様式
の3つの形式が推奨されています.1.プロブレム毎に叙述する場合,上記のProblem Listの項目に対して順番に記載していきます.例えば,
#1 ベンスジョーンズ型多発性骨髄腫
入院の上,ボルテゾミブとデキサメタゾンを用いたBd療法を開始した.6クール終了後の検査でComplete remissionとなり,外来で経過観察を行う方針となった.#2 腎機能障害
Creは3程度で推移した.高カリウム血症を認めたため,アーガメイトゼリーを処方したところ,不整脈など重篤な症状は出現せず,安定した.#3 貧血
Hb 8程度で推移しており,ふらつきや眼前暗黒感など自覚症状ないため,輸血は行わずに経過観察した.#4 腰椎圧迫骨折 コルセットを作成し,鎮痛薬としてトラムセットを処方した.1ヶ月後には徐々に疼痛は軽快したため漸減した.
のようになります.この形式のメリットはプロブレム毎にシンプルに記載できる点と,普段のカルテの記載と類似しているので記述し易い点があります.ただし,プロブレムが多すぎる症例の場合は煩雑になるので,プロブレムの数が少ない症例で使用します.
2.確定診断毎に叙述するのは,1と類似していますが,腎機能障害や貧血などの症候を原疾患にまとめて記載します.原疾患と症候の関連性が明らかな症例の場合に使用するとシンプルに記載できます.
3.経時的に叙述する形式は,時系列に沿って事実を書き連ねます.情報が入り乱れやすいので,この形式で記載するのは,治療日数が短くかつプロブレムが多い場合に限ったほうがよいでしょう.例えば壊死性筋膜炎による敗血症性ショックで入院翌日に死亡した症例のレポートは経時的に記載するのがよいと思われます.
症例をどのように理解したがが現れる項目なので,分かりやすくかつ理論的に記載することを心がけます.
【退院時処方】
退院した場合は,処方を記載します.一般名で一日量を記載するのが一般的です.
【考察】
最も個性が出る項目なので,ここに一番力を入れましょう.考察以外は誰が記載しても同じような内容になるので,事実を淡々と記載していけばよいです.メリハリをつけることで,レポート作成が楽になります.
疾患に関して一般的な事項(診断基準,鑑別疾患,治療,予後,副作用など)を記載した後,「本症例では...」と症例を評価する形式が書きやすいです.例えば,
多発性骨髄腫の治療はMP療法が一般的であったが,近年,ボルテゾミブやレナリドミドのような新薬が登場し,生存率は格段に向上した.ボルテゾミブの致死的な副作用として間質性肺炎が有名であるが,ステロイドを併用することによって発症率を有意に低下させることができる.本症例では,ボルテゾミブとデキサメタゾンを用いた化学療法を行うことで大きな副作用なくComplete remissionを達成することができた.
のように記載します.
【参考文献】
参考文献を記載します.「YearNote」「レビューブック」などの教科書よりは,「UpToDate」「xxxガイドライン」のような文献が評価が高いですが,読むのが大変です.指導医の情熱と,自分の能力と,レポート作成に使える時間を総合的に勘案して判断しましょう.
このようにまとめると,意外と記載することは決まっています.力を入れるべきところに力を入れて,よいレポートを短時間で作成できるようにがんばってください.