みーの医学

2016年3月に110回医師国家試験に合格しました.医療従事者のためのWebサービスであるLafLaboの開発者です.

犬を溺死させる実験

以下の論文では,犬を海水又は淡水で溺死させた時の現象を解析しています.

H.G. Swann, M. Brucer, C. Moore, B.L. Vezien, Fresh and sea water drowning: A study of the terminal cardiac and biochemical events, Texas Rep. Biol. Med., 5 (1947), p.423

ここから得られた知見をもとに,現在の法医学では溺死体の死因同定が行われています.

Google Scholar で検索してもこの論文の本文は見れないので大学の図書館から借りて読んでみました.

実験の概要は以下の通りです.

実験的に溺れている犬が死亡する直前に発生する心臓と生化学に関する現象を解析した.
溺れ始めてから3分以内に血中酸素濃度は0に向かって低下したが,血中二酸化炭素濃度は少し上昇した後に正常値まで低下した.pHは7.1まで低下した.淡水で溺死すると血漿タンパク質とヘモグロビンとクロールが低下し血液が希釈された.1 mLの血液に対して0.1 mLから1.2 mLの水で希釈されたと推定された.海水で溺死すると淡水とは逆に血液の濃度が上昇した.1 mLあたりの血液から0.3 mLの水が急速に体外へ除去されたと推定された.
淡水で溺死すると開始3から5分後に心室細動が頻繁に(6匹中4匹)観察された.心室細動は海水で溺死した5匹の犬にはまったく見られなかった.海水で死亡すると開始9分後に心停止が起こる.
拙訳:みー

実験のイメージ図

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両足からは血管を露出してあり血圧や血液のサンプルの採取ができるようにしたそうです.鼻と口を覆うようなマスクを被せ溺死するようにシステムを作ったそうです.1947年ではこんな動物実験をしても許された(今だったら絶対にダメ)ようです.犬の番号が82まであったので100匹近くがこの実験で死亡したのかな.

現在の医学の知識の一部がこういった動物実験から得られたものであることを忘れてはいけないと思ったみーでした.

ちなみにこの論文は優れた内容だと思いました.淡水と海水によって心室細動の発生が明確ですし血液の濃度変化も明らかです.「筋弛緩剤や溺れた時の体力の消耗なども考えないといけないが大まかにはこの実験は実際の溺死に適応できる」と最後に触れている点もすばらしいです.

(イラストはhttp://illpop.com/animal_a26.htm より改変)