「硝酸イソソルビド」と「一硝酸イソソルビド」は似ているけれども異なります.なんとなく文字を追っていると,同じものと勘違いしそうです.
化合物の違い
一般名「硝酸イソソルビド」は,ニトロ基が2つ存在するのに対して,一般名「一硝酸イソソルビド」はニトロ基が1つ存在します.英語ならばIsosorbide DinitrateとIsosorbide Mononitrateと2つか1つかが明記されるので分かりやすいですが,日本語では「二硝酸イソソルビド」の2が省略されるので,両者の違いを意識しづらくなります.日本語は学術用途には向かない言語だということを実感します*1.
商品名の比較
硝酸イソソルビドとして,ニトロール®,フランドル®が,一硝酸イソソルビドとしてアイトロール®,タイシロール®,ソプレロール®が販売されています.
錠剤の投与量・回数は同じだが剤形が多い
錠剤の投与量・回数は簡単です.通常,成人に対し,1回あたり硝酸イソソルビドまたは一硝酸イソソルビドとして 20mg)を1日2回経口投与し,年齢や症状により適宜増減します*2.
ただし,剤形がたくさんあります.錠剤,徐放剤,注射薬,舌下錠,スプレー,テープがあり,それぞれ効果の持続時間や用途が異なります.例えば,急性心不全で肺うっ血があり低酸素血症をきたしている患者に対して,肺うっ血の軽減を図る目的で硝酸イソソルビドを投与する*3のに,フランドルテープを使用すると効果発現に時間がかかるので,点滴やニトロールスプレー®などの即効性の剤形を使用するべきです*4.
対応
注意喚起している製薬会社があります.例えば沢井製薬のホームページには,
さて、弊社製品の『硝酸イソソルビド徐放錠20mg「サワイ」』と『一硝酸イソソルビド錠20mg「サワイ」』につきまして販売名が類似しているとのお問合せを頂いております。
これらの製剤は、両者ともイソソルビドを基本骨格とする硝酸エステル系薬剤ですが、それぞれ異なる有 効成分を含有する製剤で有り、それぞれの標準品、適応症も異なりますのでご注意頂きますよう、お願い申 し上げます。 *5
という文書が公開されています.
厚生労働省も「医療事故の再発・類似事例に 係る注意喚起について」という文書でこの薬剤の例を挙げています.
一般名処方された「一硝酸イソソルビド20mg」に対して「硝酸イソソルビド徐放錠20mg」を調剤 し,患者へ交付してしまった。*6
ただし,このややこしさを根本的に解決しようという動きはなさそうです.
まとめ
みーの周りの医師は,硝酸薬としてミオコールスプレー®やミリステープ®,ミリスロール点滴®などのニトログリセリンを好んで使っている印象です.硝酸イソソルビドと一硝酸イソソルビドはかなりややこしいので,硝酸薬としてはニトログリセリンの方が使いやすいように感じます.
レポートを書く時は,硝酸イソソルビドと一硝酸イソソルビドを間違えないように注意しましょう.
*1:日本語はScienceに向かないとつくづく思うこと | 海外研究者のありえなさそうでありえる生活
*2:一硝酸イソソルビド錠 20mg「日新」の添付文書,硝酸イソソルビド徐放錠 20mg「ツルハラ」の添付文書,アイトロール錠20㎎の添付文書を2020/05/22に観覧し確認.
*3:Cotter G, Metzkor E, Kaluski E, et al. Randomised trial of high-dose isosorbide dinitrate plus low-dose furosemide versus high-dose furosemide plus low-dose isosorbide dinitrate in severe pulmonary oedema. Lancet. 1998;351(9100):389‐393. doi:10.1016/S0140-6736(97)08417-1 PubMed
*4:フランドルテープ40mg添付文書の薬物動態によると,12時間で血漿中濃度が最高となるのに対して,ニトロールスプレー1.25mg添付文書の薬物動態によると,10分程度で血漿中濃度が最高となると記載あり.
*5:https://med.sawai.co.jp/file/pr26_100_1.pdf
*6:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/2_19.pdf