青酸(HCN)は酸解離定数 pKa = 9.21 の弱酸で,人体にとって有害な物質である.吸収されたCNイオンはミトコンドリア内にあるシトクロム酸化酵素の3価の鉄イオンと結合し,その活性を阻害する.
(シトクロム酸化酵素って何だっけ?と思った方はこちら)
このため電子伝達系が機能しなくなり,細胞の呼吸が阻害され,内窒息となる.
治療法は亜硝酸塩を投与して酸化鉄をもつメトヘモグロビンを生成させ,CNイオンをこれと結合させることによってシトクロム酸化酵素の活性を戻す.
ということらしいです.ヘモグロビンを酸化させてシアンが結合しやすい状態にしてシアンを取り除くという素晴らしい発想の治療法ですね.
もう少し化学的に考えると,反応
M + 6 CN- → [M(CN)6]n-
の全生成定数(25 ℃無限希釈)は
Fe2+: 1035.4
Fe3+: 1043.6
なのだそうで(化学便覧)Fe3+^の方が結合しやすいようです.血液中での化学反応はかなり複雑ですが,3価の方が安定となるようなので,納得です.
参考:法医学 (南山堂),化学便覧