みーの医学

2016年3月に110回医師国家試験に合格しました.医療従事者のためのWebサービスであるLafLaboの開発者です.

骨髄バンクに対するご意見

みーは血液内科医として白血病の患者の診療をしております.今まで全例が血縁者ドナー又は臍帯血移植となっており,実際に骨髄バンクに依頼したことはないのですが,今後の診療に活かすためにまとめました.

なお,成功例は骨髄バンクスペシャルサイトに多数掲載されていますので,あえて不満をお持ちの方のご意見を集めました.

レシピエント

AML M5b (FLT3+) 2児の母

えっと、今から毒を吐くので、嫌な方はフォロー外してください。
池江選手のおかげで、ドナーバンク登録者は増加しました。
でも、みなさんそこまでの覚悟はないようで、断られ続けております。
骨髄提供の手紙は、決められた人数までしか出せません。
答えが来てから、次の人…となります。
どうか、提供する意思がないのであれば、登録を解除してください。
もしくは、意思のない旨をすぐさま返信してください。
やり取りは手紙で行われます。
時間がかかります。
しかし、こちらの体は、刻一刻と悪化していきます。
健康な方の3週間と、命をかけて待つ人間の3週間は大きく違います。
まだ私にはゾスパタがある。
でも、このお薬を現在休薬しております。
そして、順調に内服している方でも、永遠に効果があるわけではありません。
内服している方は再発因子を持っていて、いずれ移植が必要です。
生きる邪魔を、未来を望む邪魔をしないでください。 ミーハーで殺されたくありません。 *1

ドナー1人当たりの選定回数は平均値は1.3回で,5回以上確定されたドナーは803人(全体の0.5%)と,待機時間が長期化する例もあるようです*2.病状が悪化する日々の中,ドナーが決まらないのは辛いでしょう.

ドナー

義父の葬儀に出られなかった例

入院の前日、自宅に寝かされ義母や夫の姉兄ら親類一同そして我が家の子供達が集まって義父の亡骸にお別れをしていた。特に感受性豊かな当時小学校5年生だった息子が、階段の隅っこに座り、ショックのあまり一人涙をホロホロと流しながら、声を出さずに泣いている姿をみて「子供達が生まれて初めて身内の死に触れショックを受けているのに、母親の私は一緒にいてやれない。」そしてこれだけ心配をかけたにも関わらず、優しく見守ってくれた義父の葬儀にも立ち会わない嫁、この罪悪感で心が潰れてしまいそうであった。
そう、私が考える骨髄ドナーのリスクは、絶対に外せない自分以外に代わりが効かない1日が存在すること。この一言に尽きると思う。正確には前後合わせたら最低でも3日間は絶対に外せないのだ。*3

自分以外に代わりが効かないというのはかなりのプレッシャーだと思います.冠婚葬祭は突然やってくることもあるため,社会的に困難な状況となることもあるようです.

ドナーへの報酬に関する意見

患者とドナーという最大の利害関係者が,なかなか報酬について言い出せない環境にあることから,実際には報酬付与したほうが政策的には合理的であるにもかかわらず,そのような政策が形成されていないのではないか。いわば,エアポケットなのではないか。*4

骨髄バンクが臓器売買になってはいけないとは思いますが,報酬が少ないというのも事実かもしれません.

もっとドナーを大事にしてくれ

30代男。 2017年に骨髄バンク経由で実際に骨髄を提供した。 移植は成功し,患者さんからは
「回復して家に戻れた。ほんとうにありがとう」
との心のこもった手紙をもらった。 それ自体は満足しているが,骨髄バンクの仕組みに不満が残っている。
*結論:もっとドナーを大事にしてくれ *5

医療者がドナーに対して誠実に対応するのは当たり前ですが,改めて気が引き締まるご意見です.

手紙が来ない

ドナーと患者の間では、手術を終えてから1年間、バンクを通じて手紙の交流が認められている。
私は、やはり心のどこかでその手紙を待っていた。自分の力、では全然ないけど、まぁ少しでも役に立ったのなら嬉しいな、と。
しかし、手紙は来なかった。
これが何を意味しているのか、色々と考えた。
結局、役には立てなかったのか。それとも助かったけどお礼は言われないだけなのか。それならいいんだけど、相手はひょっとしてとんでもない極悪人で、自分は社会の役に立つどころか逆のことをしてしまったのでは…
妄想は広がるばかりだ。
自分から送ろうかとも思ったのだが、悲しい理由だったら相手に悪いし、結局できなかった。
結局私はドナーにはなったものの、自分のしたことは一体なんだったのか、自分の中で消化できないまま、何ともいえない後味と厚生労働大臣からの感謝状一枚を抱えることになった。*6

レシピエントから手紙が来ないことに対して不満を持つ人もいるようですが,移植は必ず成功するわけではないので,手紙を出したくても出せなくなってしまったのかもしれません.

みーの意見

移植が必要ならば,まずはHLA適合血縁者ドナーを探す理由がよくわかりました.やはり,「お兄ちゃんが白血病だからドナーになるよ」という妹の心境*7と,「どこかにいるらしい白血病の患者のためにドナーになるよ」という一般市民の心境*8には,かなりの差があると思います.

骨髄バンクによる調整によって移植が成功し寛解を維持できるようになった患者さんもたくさんいらっしゃいますが,まだまだ改善の余地がある制度だと認識しました.

最近は臍帯血移植の件数が上回るようになっている*9のも注目すべき事実です.

*1:漣 (@ren_angela32) | Twitter

*2:過去10年間における骨髄バンクコーディネートの実態把握調査

*3:親の葬式にも出れなかった!骨髄ドナーのリスクと恵み | NEXT MEDIA "Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

*4:ざっくり時事分析

*5:骨髄バンクの感想と弁解 - ざっくり時事分析

*6:骨髄バンクでドナーになった経験と、その後の登録を断ったときの話 | 赤と黒

*7:実際の症例を見ても,助けてあげたいというドナーの意思を強く感じます

*8:初期行程で終了するケースではドナー都合,ドナー健康が理由となるケースが多い. 「過去10年間における 骨髄バンクコーディネートの実態把握調査」より

*9:非血縁者間末梢血幹細胞移植の国際協力 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000209250.pdf