医師として仕事をしていると,ともすれば,病気のことばかりを伝えてしまいがちですが,患者さんが欲しがっている情報とは乖離しているように感じます.しかし,患者さんに「質問はありますか?」と聞いても,明確に質問してくださる人は少ないです.病気について質問することはとても難しいことなのだと思います.医師の側から,おそらく知りたいだろう内容を適切に伝えるべきなのでしょう.
教科書やガイドラインには,医学的・統計学的に正しいことが客観的に記載されていますが,それが個々の患者さんにとって意味があるとは限りません.例えば,Aという抗がん剤を使うと4ヶ月予後が改善するならば,Aを用いた治療は医学的には正しいです.しかし,治療のための入院が長期に及ぶと,「入院はもう嫌.家で日々の生活を続けたかった.」と患者さんは後悔するかもしれません.
世の中には多種多様な価値観があり,医学的・統計学的に正しいことと,患者さんの価値観とに折り合いをつけて,実施可能な計画を提案することが医者の仕事なのだと思います.そのためには,多種多様な価値観をある程度知らないと対応できません.
ブログやTwitterなどで,一部の患者さんは自分の意見を発信しています.大変参考になる意見が多いです.いくつか紹介します.
30歳 女性 胃がん
30歳で胃がんを発症し,腹膜播種,卵巣転移を併発した人が,日々の思いをTwitterで発信していました.
同じような状況でいてる方と繋がりたい。自分だけじゃないって知りたい。
病院に患者さんが集まれる会は必要なのだと感じます.希望される患者さんには提案できるように準備が必要です.ただし,他の患者さんと交流することと,患者さんのプライバシーを保護することを両立させるような配慮が必要です.
ステージ4の寛解は稀で、延命治療になることは分かっている。でも苦しい治療に耐え抜くとき、やっぱり希望を持ちたいとも思う。それがないと私たちは頑張り抜くことができない。医者や看護師が私を「延命治療」として扱うのが分かるとき、とても辛い。あなたたちは、あなたたちだけはせめて希望を持ち続けて欲しい。私が絶望してるときでも、立ち向かう力がなくなっているときも、希望を持って接して欲しい。対人間なのだと忘れないで欲しい。そんな事してたら身が持たないのであれば、辛い治療に立ち向かう私たち既に倒れている。絶望的な世界で生きてる私たちから目を逸らさないで
どのような状態でも患者さんと向き合い続けることが重要なことを改めて感じます.また,治らない病気であることを伝える時に,「がんを治すことを人生の目的にしない*1」ことを助言しつつ,抗がん剤治療や緩和ケアも意味がある治療だということを理解いただくことが重要です.
無限に増え続けるがん細胞に、抗がん剤という毒を自分に盛って、その副作用とも闘う。痛くて辛くて孤独のなか。真っ暗なトンネルを、ゴールは死かも知れないと考えながら進んでく。闘う為の力は怒り。がんに対する怒りで私は闘っている。大切な人を奪っていくがんが許せない。絶対、許さない。
「死の受容」プロセス*2の「怒り」の時期だと思われますが,とても気迫ある文体です.
希望を捨てないでとよく言われる。けど私は必ずしも希望を持つことがいいことだとは思わない。薬の副作用や恐怖を感じながら日々を必死に生きてる。それだけでいい。それだけで、十分。 希望は持たなくとも、生きてる喜びを感じて「もうちょっと頑張ろう」と思えたらいい、覚悟を持って。
がん患者さんはうつ病ないしはうつ状態の場合があります.うつ病患者に接する側面も必要なのだと思います.「希望を捨てるな」という言葉は,治らない病気を患った患者さんにとってかなり辛いと思います.
なお,うつ病患者さんとの接し方という記事に,分かりやすく記載されています.
過剰な励ましや心配は避け、患者さん本人のペースを大切にしましょう。病気とわかっていても元気のない状態をみると、周囲の人はつい励ましたり、いろいろと構い過ぎたりしてしまいます。しかし、うつ病の患者さんは周囲の人々のこういった“配慮”に対して、とても大きなストレスを感じてしまうこともあります。うつ病患者さんは、心身ともにとても疲れた状態にあります。『たまには気分転換にでも・・・』などといって外出などに誘いたくなりますが、これはかえって患者さんを疲れさせる原因になります。周囲の人は、患者さんがゆっくり休めるよう、環境を整えてあげましょう。
- やたらに励まさない
- ゆっくり休めるように環境を整備する
- 共に在る存在でいる
- 患者さんの不安に巻き込まれない
- 周囲からの不適切な忠告に惑わされない
- 患者さんがあせっている時にはブレーキをかける *3
患者さんを支持するような声掛けが重要なのです.
31歳 女性 肺がん
31歳で肺がんを発症した人が,日々の思いをブログで発信しています.
その間何度も看護師さんが「もしがんだった時は本人に告知してもいいですか?」って聞くんですよ。いや、そんながんだなんて…って思ってたのに、何度も聞かれるうちに不安になりました。
引き続きができていないと,何度も同じことを複数の医療従事者が確認して,患者さんが不安になるので,気をつけないといけないです.患者さんに聞いたことはカルテで共有し,カルテに書いてあることはなるべく聞かないようにするべきです.
突然質問しました。
「あの…もうすぐ死ぬってことですか?」
なんという質問(笑)先生もきっとなんと答えていいかわからなかったでしょうね。
「うーん…まあ。皆さんと同じ長生きは出来ないでしょうね。」
この言葉を最後に周りの音が聞こえなくなりました。
がんを告知した時に,この質問をする患者さんは多いです.とっさには答えなれない質問ですから,予め答えを準備するべきです.
「無治療では短い時間に病気が悪化して命に関わりますが,治療を行うことで病気が改善する可能性があります.その治療についてご提案させていただいてよろしいでしょうか?」という返事がよいかなと思っていますが,よりよい答えを模索しています.
CT見たら、わたしでもわかるくらいにスッキリ小さくなってました。ジカディアはすごい変な味で吐き気するんですが、頑張って3錠ずつ飲んだ甲斐あったな。そう思いました。
本当に嬉しかった。頑張れば寛解も夢じゃないかも。そう思ったり… わたしの目標!!寛解状態!!
ステージ4でも寛解状態になってるという報告をある人から受けて、わたしも後に続きたいなって思いました。
きっと叶えてみせる。
元気になってまた前の生活に戻るんだ。
そんなこと出来たらどんなに幸せだろう。
わくわくは止まらない。
頑張った分、幸せが舞い込んできますように…
治療がうまくいっている時は,医者の頭の中だけで留めずに患者さんにも共有するべきです.患者さんも積極的に治療に臨めます.
痛みについて主治医には幾度となく訴えてきましたが、いつまでも効かない痛み止め(トアラセット)と、いつも少なく処方されるロキソプロフェン。 (中略) 飲み始めて3日目。ナルサス、ナルラピド、サインバルタに変えたことに寄って、とても痛いから少し痛いくらいに痛みは治まりました。
WHO方式の三段階除痛ラダーはよいですね.患者さんの痛みを確認して,適切な鎮痛薬を処方できるように努力するべきです.
まとめ
主治医に直接言いにくい不満や思いは必ずあると思います.ブログやTwitterは,医師としてどのように対応するべきかを学ぶのに適していると思います.こういったフィードバックによって,医療がよりよいものになっていくことを願います.